次の書面を裁判所に提出いたしました。
第一準備書面
平成24年(ワ)第6690号 執行判決請求事件
原 告 夏 淑 琴
被 告 株式会社展転社他1名
第一準備書面
平成24年11月8日
東京地方裁判所民事第25部乙1A係 御中
被告ら訴訟代理人
弁 護 士 高 池 勝 彦
弁 護 士 荒 木 田 修
弁 護 士 尾 崎 幸 廣
弁 護 士 勝 俣 幸 洋
弁 護 士 田 中 禎 人
弁 護 士 山 口 達 視
第1 請求の原因に対する答弁
1 第1項 原告については不知。被告会社については認める。被告松村につ
いては執筆を業としているわけではない。
2 第2項
(1)前段は不知。後段は認める。
(2)すべて争う。
3 第3項 争う。
第2 「第3 間接管轄及び相互保証について」 に対する答弁
1 第1項 すべて争う。
2 第2項 引用されているわが国の判決はその通りであるが、その判決の解
釈を含み、原告の主張はすべて争う。
3 第3項 争う。
第3 被告の主張
1 民訴法118条の要件 ― その一 外国の裁判所
(1) 民事訴訟法(以下「民訴法」という)118条柱書は、「外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。」とし、また、同条1号は、「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。」と規定する。
ここにいう「外国裁判所」とは、少なくとも我が国と同等の裁判官の独立が認められている外国の裁判所と解すべきである。
(2) 中華人民共和国についてみると、我が国で要求されるのと同程度の裁判官の独立が認められていないことは公知の事実である。
中華人民共和国は、共産党の一党独裁を国是とする国家であり、司法権の独立などおよそあり得ない。中華人民共和国においては、共産党や政府の意を受けて裁判がなされていることが明らかであることである。しかも本件は、いわゆる南京大虐殺に関するものであり、「南京大虐殺」は中華人民共和国政府が一歩も譲るつもりもない最も重大な政治的事件である。それについての反論などおよそ許されるわけもないばかりか、仮に被告らが南京市に出向いて応訴すれば生命の危険さえあるのである。
(3) よって、中華人民共和国江蘇省南京市玄武区人民法院(以下「南京人民法院」という)の平成18年8月23日判決((2003)玄民−初字第1049号)(以下「本件外国判決」という)は、民訴法118条の「外国裁判所の確定判決」に該当しない。
2 民訴法118条の要件 ― その二 管轄
(1) まず、そもそも、本件外国判決を宣告した訴訟(以下「原訴訟」という)
につき、南京人民法院に土地管轄が認められない。
すなわち、民訴法5条9号は、不法行為に関する訴えの管轄として「不法行為があった土地」と規定しており、ここには、原告主張のとおり、特段の事情がない限り、行為地のみならず損害の発生地も含むとされる。
原告は、本件外国判決において、被告松村の著書を中華人民共和国で不法に翻訳したいわゆる「海賊版」を読んだことにより精神的苦痛を生じたとしているのであるが、このように不法に翻訳された海賊版によって原告に精神的苦痛を生じることは、被告らにとって全く予期しないことであり、上記特段の事情があるといえる。
よって、原訴訟について、初めから、中華人民共和国における土地管轄はない。
(2) さらに、原訴訟の管轄を中華人民共和国に認めることは条理に反する。
本件外国判決は、「南京大虐殺」に関する重大な政治的事件であり、司法権の独立がない中華人民共和国において、被告らに応訴を強いることは、被告らにのみ一方的な負担を負わせることになるのみならず、うかつに出頭したりすれば、被告らの生命・身体に危険が及ぶおそれもあることから、当事者間の公平に欠け、適正な裁判を期待することはできず、条理に反するものである。
(3) よって、原訴訟について、中華人民共和国に管轄は認められない。
3 民訴法118条の要件 ― その二 公序良俗
(1) 民訴法118条第3号は、「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。」と定めている。
(2) この場合の公の秩序には裁判官の独立といった手続的公序も含まれる
(東京高判昭和57年3月31日参照、「裁判の成立手続に司法の独立の侵害とか民事訴訟の基本原則に対する違背の重大な瑕疵が存するときは、その外国裁判所の判決を承認することはわが国の公序良俗に反して許されない」)。
(3) 中華人民共和国において司法権の独立(裁判官の独立)が認められないことは、上記1(2)のとおりである。
よって、本件外国判決の訴訟手続は、日本における公の秩序に反する。
4 民訴法118条の要件 ― その五 相互保証
(1) 民訴法118条4号は、国際法上の相互主義に基づき、「相互の保証があること」と規定していることから、当然ながら、日本でされた判決と中華人民共和国でされた判決が相互に相手国において効力を有するのでなければ同号の要件を満たさない。
(2) 我が国と中華人民共和国との間で相互の保証がないことは、中華人民共和国最高人民法院の1995年(平成7年)6月26日の「我が国と日本は、相互に裁判所の判決、決定を承認、執行するとの国際条約を締結していない。相互の関係も作り上げられていない、民訴法268条に基づき、人民法院は、日本の裁判所の判決を承認、執行しない。」との回答から明らかである。
(3) よって、我が国と中華人民共和国の間には、相互の保証はない。
5 結語
以上のとおり、本件外国判決は、民訴法118条の要件を満たさず、よって、原告の請求には理由がない。
更に詳細な反論は追って提出する。