書評 (平成15年9月18日)
◆ 丹羽春喜 著 『謀略の思想「反ケインズ」主義』
xx思想、xx主義、xx理論、世の中にはこのような権威のある価値体系がある。
そういった価値体系は元々は人類の幸福を深める事に資する事を目的として発生してきたものである。しかしながら不完全な人類はどのような試みをやっても必ず失敗する事を逃れられないのである。さらにそのような失敗の中には残念ながら、無用であるばかりか有害なものもそれらしき正当な外観をもって世に流布する事がある。
このような場合、それら有害な価値体系の正体を暴露し、その害悪の世に波及する事を 防止しなければならない。本書は丹羽春喜氏の永年の学問的献身によって涵養され研ぎ澄まされてきた問題意識の下に、わが国の、いや世界の平和と繁栄の妨げとなってきた二つの価値体系を厳しく指弾する。 それはマルクス主義と新古典派理論である。
マルクス主義,すなわち共産主義は、言うまでも無く既にその有効性が歴史的に否定され現在においてはその社会的悪影響は駆逐されつつあるが、近年に到るまでわが国の歴史にも重大な影響を与えつづけ悲惨な戦争の重大な一因を形成した事が述べられている。特筆すべきは、本書の中で述べられている歴史的事実は現代の自虐史観に基づく歴史教育においては故意に又周到にあたかも存在しなかったかのように扱われてきた部分であり、更にその歴史解釈は新たな視点を提供するものであり、より客観的な歴史観をわが国が形成する上で重要な役割を果たすものと思われる。
世界が資本主義国と共産主義国とに2分された時代においては、ケインズ理論の活用により資本主義国はその産業革命後に見られた社会矛盾と欠点を超克して繁栄を謳歌してきた事は周知の事実である。しかしながら1980年ごろよりわが国の経済政策は新古典派理論に大きく影響され又わが国の官僚制度に潜む没社会的保身主義と相まって、今日の憂慮すべきわが国の経済状況を現出してきた事が本書では述べられている。人類は資本主義に内在する欠点を超克した偉大なケインズ理論を深化発展させることなく、非現実な仮定に基づくルーカス,フリードマンなどによって提唱された反ケインズ主義ともいうべき新古典派理論に翻弄され苦杯をなめさせられてきた。
本書はマルクス主義、新古典派理論という二つの反文明的思想を快刀乱麻の如く切り裂き糾弾するものであると同時に、それにはとどまらず切迫し急するわが国経済状況の活路を見出す処方箋を世に現すものである。本書が丹羽春喜氏の永年にわたる研究の成果であり、彼の学者としての良心の結実である事はいうまでも無い。昨今、浅薄な個人主義に胚胎する経済学上の悪書が氾濫する中において新しい時代を開く画期的な一書と言える。 読者諸賢にはそのことを肝に銘じて本書を読破し是非とも新境地を開かれるよう、切 にお願いする次第である。
(小説家・鷲尾村夫子)