書評 産経新聞(平成15年8月31日)
◆ 丹羽春喜 著 『謀略の思想「反ケインズ」主義』
バブル経済がもろくも破裂し、自殺者が年間三万人以上を記録するほどの惨状。にもかかわらず不況の先がまだ見えない。政策は枯渇し、政官は抜本的施策を怠け、解決を先延ばしにした。漆黒の闇の先にある筈の光が、射さないわけだ。
丹羽氏は日本経済の蹉跌は「反ケインズ」という容共主義に固まった人たちによる国際的な謀略が行く手を塞いでいるからだ、と挑戦的な分析から筆を始める。
あたかも「ゾルゲ事件」に連座した尾崎秀実(当時朝日新聞記者)ら日本人スパイらが日本を支那事変に巻き込んだような世紀の謀略に匹敵する、と。
この闇と桎梏を突破し、経済を健全化する方法は簡単である。政府紙幣を4、5百兆円発行して総需要を高めればよく、政府には、その権利が保証されている。
明治維新の経済的成功は、巨額の戦費と文明開化のインフラ整備に天文学的な財政支出を講じたためで、その中軸にあった財政の秘策は「太政官札」の発行すなわち「不換政府紙幣の発行による造幣益でまかなわれた」。
景気対策として政府が出来るのは@租税徴収(もしくは増税)A国債の発行、そしてB政府紙幣である。日本は@とAをすでに何回か実行したが効果はなかった。昨今は「経済改革が不徹底だから」と怪しげな説を述べる学者、エコノミスト、マスコミが支離滅裂な「改革案」を羅列して国民をマインドコントロールにかけてきた。
ミルトン・フリードマンら米国のマネタリストさえ「知的不誠実であり、悪質なニヒリズム」と批判し、返す刀で小泉政権の経済政策の誤謬を鋭く指摘する。「緊縮財政」なるものが「景気冷却効果」をもたらし、「政府・地方自治体の歳入の減収は、きわめて激甚なものになる」のだと。
「構造改革」は「全くの見当違い」であるばかりか「自暴自棄的」「ヒステリックな暴論」と断定する。近来稀な、知的刺激に富んでいる。
(評論家・宮崎正弘)