書評  日本文化第4号(平成13年4月)

◆ K・カール・カワカミ著 福井雄三訳 『シナ大陸の真相』


 この本は一九三八年三月、ロンドンで英文出版された日系アメリカ人・K・K・カワカミの『Japan in China』の本邦初訳である。欧米滞在の長かった彼は、戦前日本の立場を世界に訴える役目も果たしていたジャーナリストで、この著作は支那事変勃発後、日本が国際的に苦境に立つようになった時期にタイムリーに出版され、反響を呼んだ。満洲事変以降、日本が中国となぜ戦うようになったのかがきちんとした資料に基づき、明快に説明されている。
 アジアに重点を移したコミンテルンの陰謀、謀略に危機感を募らせる日本の立場の正当性を論じ、中国の表向きは権利回復という名の排外運動が、ほとんど何の意味も持たない前近代的性格の無謀行為でしかなく、自己の存在は世界の中心に位置するものとする中華思想と、《以夷制夷》《遠交近攻》といった伝統的外交姿勢が、その根底に自己以外へのあらゆるものへの侮蔑意識があることを様々な外交事例によって証明する。日本はそうした中国に対し、国際儀礼に基づき常に誠実に対処していこうとし、そしていつも徹頭徹尾裏切られ、日本の大陸における権利は損害を被るようになったのであると。そうしたすべてに、中国との対立と戦闘行為の原因があるのだと。
 彼は日本が中国において事業を起すことは、欧米が求める門戸開放を促進するものだという。そのためには安定した社会が必要であり、それは中国の無分別な排外行為の現状では不可能であり、戦闘を余儀なくされた日本の正当性を明快に論じたてるのである。
 そしてもし欧米がこの日本の姿勢を理解し協力しなかったら、アジアにおける欧米の利権は損害を被り、共産主義が勝利を収めることになると不気味な予言を述べるのである。この予言は的中した。もちろん日本の敗戦によって。
 カワカミはアメリカの司法家サイラス・ストローンの意見を自己の論理に適用しているが、この司法家は北京駐在公使ジョン・マクマリーとともに一九二五年の北京関税会議のアメリカ代表であった。この会議の冒頭、日本は中国に関税の自主権を認める寛大な提案をしているが、それに乗じて次々に虫のいいことを言い出したのも中国だった。その行動を逐一観察し、ワシントン体制の真の破壊者は中国であり、満洲事変に日本を追い込んだのも中国だと一九三五年に国務省に提出したメモランダムに書き残したのはマクマリーである。このマクマリーの意見が後に米ソ冷戦が始まる時、《ソ連封じ込め政策》の提案者ジョージ・ケナンによって高く評価されたのはよく知られた事実であろう。
 カワカミのこの著書もその意味ではマクマリーのメモランダムと並ぶ予言書の体裁を持っている。
 しかしそれにしても、日本とは違って長く中国と接してきた、この本に出てくるイギリス人たちの「中国との交渉は大砲を突き付けた時のみ可能だ」という鋭く突き抜けた認識はどうだろう。ここにこそ中国というものの真相が隠されているのであり、現代の日本人たちに改めて『シナ大陸の真相』として、この本が読まれねばならない理由が存在するのである。もちろん「謝罪」や「歴史認識の共有」などというお人好しの日本人の論理が、中国人から嘲笑のまなざしを向けられるだけでしかないことは、これらのイギリス人たちにはとっくに承知のことである。